【真に自認する性別に即した社会生活を送ることができる職場づくりを】:Foresight ~専門家が見る世界~ 第11回

先日、労働法学会の「ジェンダー規範からみるトランスジェンダーの労働―トイレなどの施設へのアクセス事件を中心に」の勉強会に参加しました。シス女性(身体が女性で自分の性別は女性だと思っている人)からみると当たり前の何も気にすることのないことも、トランスジェンダーの女性(身体が男性で性自認が女性の人:トランス女性)にとっては困難なつらい思いをしている事を知りました。判令では「他の女性職員利益の保護」を理由にしたトランス女性のトイレ利用の制限等は違法ではないと判断されています。(東京高判令3.5.27 労判1254 号5頁)現在控訴中です。

また「性的志向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会2019」という会があり、発行する困難リスト(第3 版)の事例の発表もありました。

① 就職活動の際、履歴書の性別に現在の生活している性別を記載した結果「詐称だ」と言われた。
② トランスジェンダーであることをカミングアウトしたところ、別のトランスジェンダーの社員について「あの人もトランスなのですよ」と言われた。自分のセクシャリティもこうやってアウティング(本人の意思に関係なく公表されること)されているのではないかと不安になった。
③ トランスジェンダーで、自分の場合は男女に分かれた職場のトイレが使えない。職場でトイレを使いたくないため、もう何年も1 日中飲まず食わずで働いている。それでもどうしてもトイレに行きたくなった場合には、職場から離れた駅のトイレを利用している。
*株式会社LIXIL の調査ではトランスジェンダーの25.4%が排泄障害(膀胱炎、下痢、便秘、尿漏れなど)を経験していると回答

どこの職場でも起こる可能性がある内容です。

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〈性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律〉では、「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者で、生物学的な性と性の自己意識が一致しない疾患である、とされています。同法第3 条で、家庭裁判所は請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができるとし、いくつかの条件を上げています。
その中で(1) 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
(2) その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
と、性転換手術をしないといけないとなっています。
この手術も保険適用外なので、経済的、身体的、精神的負担は相当なものです。そこまで求めなければならないものかと思いました。

 

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LGBT 当事者の性的指向を理由とするハラスメントについては、セクシャルハラスメントに関する取り組みが参考になります。性的少数者に関する言動もその対象です。よって、事業主が性的言動によって職場環境を害されないように講ずべき措置には、性的少数者に対するものも含まれます。性的言動に限らず、職場において差別的発言によって精神的苦痛を受けた場合には、発言者が人格権侵害として損害賠償義務を負うだけなく、事業主も使用者責任に問われる可能性があります。「働きやすい職場を作っていく」とは即ち一人ひとりが人間らしく生きることができることなのですね。

(アミティエ社会保険労務士事務所 森村 和枝)
*次回は法務の視点から解説する予定です