【最近よく聞かれる「人的資本経営」とは(後編)】:Foresight ~専門家が見る世界~ 第20回

前編では、人的資本経営とは何か、そしてなぜ最近注目されているのかに触れました。

3. 中小企業と人的資本経営

開示義務がない中小企業にとっては無縁の話でしょうか?「そのような事はない」と中小企業の経営者の皆さま、そしてお勤めの皆さまも感じておられるのではないでしょうか?

採用難、キーマンの離職、若手が定着しない等、人のことで悩んだことのない中小企業経営者は多くおられるのではないでしょうか。今回、人的資本経営を推進する事による2つの効果を伝えさせていただきます。

まず1つ目は採用での効果です。上記で挙げている人材育成、エンゲージメント、健康、労働慣行などの状況を整え、発信する事は他社への差別化にも繋がり、優秀な人材の確保・定着につながります。

2つ目は市場での効果です。昨今ますます企業の社会的責任(CSR)の観点やSDGsでも17の目標で「8.働きがいも経済成長も」でその重要性をうたわれています。人的資本経営に取り組む事は顧客からの信頼や評価にも繋がってきます。また「インターナル・マーケティング」という従業員の満足を高めることで、サービスの質や製品の質を高め、顧客満足度の上昇を図り、それによって企業の利益を生み出すという考え方からも必要と考えます。

 

4. 中小企業が人的資本経営を推進するには

中小企業が人的資本経営を推進するためのポイントは幾つかありますが、今回は3点お伝えいたします。

1つ目のポイントは「経営者のコミット」です。大企業と違って経営者と従業員の関係性が近いという事から経営者は従業員から一挙手一投足を見られています。経営者自らが従業員と積極的にかかわり、自社のビジョン・ミッションや従業員が目指すべき姿を発信し、従業員に理解してもらうことが、人的資本経営の推進へとつながります。

2つ目のポイントは制度を整える事です。1つ目のポイントで言葉と行動を一致させる事の重要性について触れましたが、行動が成果や評価につながる事もモチベーションを保って継続させるためには必要です。ミッション、ビジョンに則った行動をしている従業員に対しては適切な評価を行うなど、仕組を整える事も重要になります。

3つ目のポイントは優先順位を決める事です。中小企業は人、資金といった経営資源が限られています。そのような中、従業員を大事にする施策として様々な事を実行したいと考える方は多いでしょう。「研修も充実させたい」「福利厚生も大切にしたい」「残業も減らしたい」など、思いは尽きないと思いますが、人材戦略に沿って施策の優先順位を決める必要があります。

 

今一度、現在の自社の状況を振り返り、出来るところから始めてみてください。人的資本経営を推進する事は従業員満足が生産性向上、サービスの向上をもたらし、顧客満足に繋がり、経営者の皆さま、従業員の皆さまの幸せに繋がっていくのではないでしょうか。

(ナラティブサポート 上村 拓也)