大阪経済大学 経済学部教授 下山 朗
【概要】
2024年第2四半期(4月~6月期)に行った景況調査は、227件の有効回答を得た。それらのうち、DI値、経営上の問題点、特別項目として調査を行った「インボイス制度」「賃上げ」について結果を表している。
DI値については、売上、利益、採算、景気動向のいずれの項目もDI値はプラスである。しかしながら、2023年第2四半期と同様に、売上の伸びと比較して利益のDI値は小さく、利益を十分に確保する水準に至っていない状況が継続していると推察できる。
経営上の問題点については、従業員の不足、人件費の増加、仕入単価の上昇・高止まりなどが高い。特徴的な点として、仕入単価の上昇・高止まり、管理者の不足、人件費の増加が昨年対比で少なくなっている。逆に、同業相互の価格競争の激化が高くなっている。
特別項目の「インボイス」については、「業務負担の増大」が多く、中小企業にとって多くの負担になっていることが分かる。また「賃上げ」については、会員企業の75%を上回って実施している(する予定)であり、賃上げ率も昨年度を上回っている。また、その原資については、「製品・サービス単価の値上げ」「社員教育による生産性向上」「製品・サービスの受注拡大」などが中心である。
1.DI値の推移から見た検討
【全産業の各項目データについて】
右側の青色の斜線のものがプラスを表している。今期(4月-6月期)の各項目のDI値は、売上、利益、採算、景気動向のいずれの項目もDI値はプラスである。前回の調査(2023年第2四半期)と同様に、売上の伸びと比較して利益のDI値は小さく、利益を十分に確保する水準に至っていない状況が継続していると考えられる。また、採算性がマイナスの値を示しており、企業の経営状況は厳しいことを表している。
※DI値は、「良い/悪い」「上昇/下落」といった定性的な指標を数値化し、「良いと考えている企業比率-悪いと考えている企業比率」を求めて、その値がプラスかマイナスかを見ることができる指標。
【仕入価格のDI値】
企業物価については、ここ1年間の状況はほぼ一貫して仕入価格の上昇(DI値が大幅にマイナス)していることが分かる。一方、1年前と比較すると、建設業は下げ止まりしているものの、製造業では非常に高い値でマイナスであることが分かる。
※「その他」は医療福祉、教育、金融保険、情報通信、農林水産、不動産を含む
【DI値の推移】
コロナ前の2018年第2四半期より、前年同期比の売上、利益の推移、採算、景気動向の4指標の推移についてみていく。コロナ禍初期の2020年第2四半期の落ち込みが最も大きく、2021年第2四半期以降は売上も利益もプラスを維持している。ただし利益のDI値はそれほど高くない状態が続いている。一方、景況感については、昨年の第2四半期と同様にプラスになっている。
2.経営上の問題点と力点について
経営上の問題点については、従業員の不足、人件費の増加、仕入単価の上昇・高止まりなどが高い。特徴的な点として、仕入単価の上昇・高止まり、管理者の不足、人件費の増加が昨年対比で少なくなっている。逆に、同業相互の価格競争の激化が高くなっている。
3.特別項目 (1)インボイスについて
【インボイスの課題・問題点】
インボイスの課題については、「業務負担の増大」と回答した人が多く、おおよそ過半の企業が感じている。また、「適格請求書かどうかの判断が困難」など、適格請求書をめぐる課題も大きい。
【具体的に増えた手間】
具体的に増えた手間として、「領収書がインボイスの要件を満たすかの確認」「インボイス対応・非対応の選別や確認作業」「仕訳業務の増加」が多く、中小企業の経営の課題となっている。
4.特別項目 (2)賃上げについて
【実施状況】
賃上げの実施状況については、実施した・実施する予定を合計すると、75%にものぼり、会員企業のうち対象となる従業員がいる企業のほとんどが、賃上げを実施する結果となっている。
【賃上げ方法】
賃上げ方法については、「ベアを含めた正社員全体の賃金増加」が最も高く、ついで「定期的な昇給」となっている。
【賃上げ率(年収ベース)】
賃上げ率については、2~3%未満の企業が最も多く、平均賃上げ率は3.02%と昨年度をやや上回る結果となった。
【賃上げ原資】
賃上げ原資については、「製品・サービス単価の値上げ」「社員教育による生産性向上」「製品・サービスの受注拡大」が高い。
今年は関西2府4県全体で3,491社の回答が集まり、8/8に合同記者発表を実施しました。これだけの規模、とくに小規模・零細企業を一定数含んだ調査は他にはなく、関西圏で8割以上の人が働いている中小企業の実態をつかむうえで非常に意味のあるデータとの認識が、分析を担当いただいた大阪経済大学 下山朗先生より示されました。